〜パラレル小説 <メジャオケ!!> アメリカ編〜
<その4 すれ違う音色>
ある日のこと。
演奏旅行でしばらく長期不在にする前にと、ギブソンは吾郎を自宅に招待してくれた。
リムジンに乗せられて連れてこられた先は、高級住宅街。
一等地に建つ立派な邸宅は、見たこともないような豪華さだった。
そこには、息子のギブソンjrも来ていた。
控え室で出会って以来の再会だった。
「ゴローにきちんと紹介するのははじめてだったな。私の息子だ。」
改めてあいさつを交わしても、jrは仏頂面のままだった。
師匠の手前、吾郎は懸命に愛想笑いをしてみるが、
食事が始まっても、jrは吾郎に笑みひとつ返さなかった。
「オヤジも物好きだな。本当にコイツを弟子にしたのか?結局ゴシップネタにされるのがオチだぜ」
初めて会った時とは違い、今は吾郎もそれなりに英語が理解できる。
これだけ明らかな嫌悪感を向けられては、好印象などもてるはずもない。
「おいおい、畑違いのあんたに、とやかく言われる覚えはないぜ?」
「はっ。俺はピアノだってわかるんだよ。誰に向かって口きいてんだ?」
「いいかげんにしなさい。せっかくのディナーが台無しだ。」
険悪な二人の空気にため息をついたギブソンがたしなめる。
そっぽを向いた二人はまるでききわけのない子供のようだった。
やがて、食事が済み、コーヒーが出てくると、話題はJrのフルートになった。
「どうだ?ジュニア。最近は、ジャズアレンジの曲も弾いてるそうじゃないか?」
「はい。俺は、幅広い演奏家になりたいんです。」
「何事も経験だ。期待しているよ?」
父親の眼差しに、jrの顔が少し輝いた。
「久しぶりにお前の演奏を聴きたくなったよ。そうだ、吾郎が伴奏をしなさい。」
「げ・・・?俺!?」
「!?」
突然の提案に、二人は顔をこわばらせた。
「どうした?簡単な曲ならすぐ弾けるだろう?」
ギブソン氏の顔は冗談で済まそうとはしていなかった。
リビングの奥には、大きな出窓があり、午後の日差しが明るく差し込んでいた。
ギブソンは綺麗に手入れされたグランドピアノのふたを開けると、二人を手招きした。
吾郎もjrも、互いに嫌そうな顔を隠さない。
だが、ギブソンの無言の視線に逆らえるはずもなく、
仕方なく、二人は渋々と楽器に向かった。
jrはピアノの上にある楽譜をいくつかまさぐり、適当な小曲の楽譜を選ぶと、吾郎に渡した。
「・・・・シューマン・・・?」
「これくらい弾けるだろ?」
「フン!俺に伴奏してもらうことありがたく思えよ!?」
「俺に合わせられるなら・・な」
演奏が始まった。
だが、これだけいがみ合っていては、当然、息など合うはずもない。
(ちくしょう・・・ちっともついていけねぇ・・・)
(・・!!)
吾郎の指は精細さに欠けてボロボロ。そして、
jr自慢の黄金色のフルートは、吾郎の危うげなリズムにかき乱され、
壊れたおもちゃのような旋律となって流れ去って行った。
あまりの出来の悪さに、二人はさすがに気まずい顔で俯いた。
曲がりなりにもプロの音楽家の端くれがする演奏では無かった。
「全く・・・・・・お前たちはどこか似ているところがあるな。」
ギブソンは、あからさまにやれやれという顔をした。
そして二人に、ちゃんと練習して、
演奏旅行が終わって帰国した際に、もう一度聴かせるように言ったのだった。
<続く>
2009年3月2日
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
back to novel menu