SSS 2月14日
 
            
  




沖縄に来て、やっと晴れ晴れとした空を見ることができた。
気温も高く、南国らしい陽気が漂う中、
球場入りすると、待っていたファンからたくさんのきらびやかな贈り物をもらった。


そうか、今日はバレンタインデーか。


「お、さすが甲子園優勝投手は違うな。
チョコレートの数がチーム一なんじゃないのか!?
 俺も20年若かったら負けないんだがなぁ?」



大先輩が、笑いながら小突いてくれた。
そんな彼も、片手に幾つもの包みを抱えている。
自分が物心付いたときには既に、プロとして活躍していた、
偉大な投手の笑顔に、眉村はただただ照れていた。


「・・・いえ、同級生なら、もっともらってる奴がいるはずです。」


頭の中に、さわやかな笑顔のキャッチャーと、そして、
少し得意げな顔をしている恋人が代わる代わる浮かんだ。



・・・・・・・・・・・・・・




その日の練習が終わって、ホテルの部屋に戻るとそこにも
いくつかのチョコレートが。

その箱に混じって、ひと際大きなダンボールがあった。
よく見ると差出人には薬師寺の名前。


(何やってんだあいつ?)


箱の中には、今話題の知事の似顔絵のパッケージの宮崎名物が
いろいろ詰まっており、思わず噴出した。
いくらキャンプ地が宮崎だからってこれはないだろう・・・・。


そして箱の底には、どこで仕入れたのか、
いかにも高級そうな美しい包み紙の箱が。
そこには、色気も無い、直に書かれた文字があった。
おそらく使われたのは、サイン用の太い油性ペン。


「This is THE ONLY Chocolate you can eat!!」


書きなぐられた薬師寺の筆跡に、
眉村はしばらく呆れて見入った。

かっこつけて何やら書いているが、要はコレ以外食うなだと?


(・・・・馬鹿が)


ベッドに腰掛けて、一人で笑ってしまった。
仕方がないから、その包みをあけて
小さな茶色い宝石のような塊を口に運ぶ。


そのやさしい甘さは、練習の疲れを忘れさせてくれるような気がした。









<終>


2008・2・14


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