七夕妄想。





「7月7日の二人」







ロマンチストといえば聞こえが良いのかもしれないが、
七夕の夜に会いたいなどとペナントレースの最中に
言い出す恋人の趣向を未だ眉村は理解できない。

埼玉と横浜に本拠地を構えるチームに所属し、
リーグも違う二人の恋は、シーズン中に思うような逢瀬は重ねられない。

とはいえ。


「俺とお前の間に横たわる天の川はすなわち東京都だ!!」


だから都内で会いたいと強引に誘う薬師寺に、眉村は呆れ果てた。
彼は確かに恋人ではあるが、
センスのカケラもない戯言を平気で口にできる神経を
愛してるとは言い難い。

「・・・・この間の申し出は無かったことにしてくれ」

思わず電話口で婚約解消を言い渡した。
さすがにうめくような声が相手から漏れる。

「・・・怒るなよ。冗談だ。お前、今日先発なんだから、明日休みだろ?だから・・・」

「いいかげんにしろ。」

「・・・・・わかったよ。ワガママ言って悪かったな。」

これ以上は織姫の機嫌を損ねる。
長年培った勘が働いた薬師寺はしぶしぶ引き下がろうとした。
すると。

「明日の夜には大阪入りする。・・・だから・・・東京駅の近くなら行ってやってもいい。」

結局妥協してしまったのは、薬師寺の勢いに負けたせいか、
それとも久しく会えなかった相手への想いのためなのか。

薬師寺の機嫌の良い声がいつまでも眉村の耳に残る。

「俺もつくづく馬鹿な奴だ。」

ぼそりとつぶやいた眉村は、その夜ホームゲームの勝ち投手となり、
一人都心へと向かった。


途中、大きな河を超えた。
梅雨の長雨で水かさの増した河川敷は夏の草が生い茂っている。


「今夜は星が見えてよかったですねぇ」
タクシーの運転手がのんびりと言った。
そういえば、と眉村は考える。


ここ何日か降り続いた雨のせいで、眉村の登板が変則的にスライドした。
また明日の夜には雨になるという。
互いの遠征スケジュールを考慮すると、今日晴れなければ
決して会えるような日程ではなかったことに気付く。


恋人が七夕を引き合いに出して今夜の約束を切望したのも、
なんとなく理解できる気がして、眉村はふっと笑みをうかべた。


たった一晩、奇跡的に晴れた夜空には、月が明るく輝いている。
今宵限りの逢瀬が、本当に演出されているかのようだった。





<終>



続きはラブラブv 



2009年7月10日



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