傍らに君が 2





医務室を出た薬師寺は、着替えの為にロッカールームに向かった。


先ほど、思わず眉村の肩を掴んでしまった時、
両手に温かな彼の体温を感じて、自分の鼓動が早まるのがわかった。




彼のことが好きだった。


たぶんもうずっと前から。


でもそれは、胸の奥底に、そっとしまったはずの想い。


それなのに、眉村が自分の打球を受けて倒れる姿を見たとき、
薬師寺は、自分が閉じ込めたはずの恋心が揺れ動いたことに気づき、
激しく動揺した。



(佐藤に、あっさり気づかれたな・・・)



苦笑しながら、ロッカールームをあとにする。







・・・・・・・・・・・・・・・・・


眉村と初めて会った日を正確に覚えているわけではない。 付属中学に入学したての頃は、知らない顔に囲まれた
初めての環境に慣れるのがせいいっぱいだった。


同じ野球部の新入生に、少年ドッジからスカウトされたという眉村がいた。


寡黙で人を寄せ付けない雰囲気。
初心者のくせに、天才肌。
やけに目立つその存在が気になって、
余計なお世話だとは思ったが、ほうっておけなかった。


______そんなんじゃ、反感買うぞ、お前。



練習のない日だった。

眉村と数人の上級生が、
いつもとは逆の道で下校する姿を目にした薬師寺は、
どうしても気になってあとをつけた。

日も翳り、人気の無い公園で、案の定上級生に囲まれている眉村の姿。



_______すいません!こいつには俺からちゃんと言っておきますから!



気がつくと、眉村をかばって上級生に謝っていた自分がいた。


結局、二人とも一発ずつ殴られた。



夕焼け空がやがて薄暗い紫色になるまで、
二人の間には沈黙しかなかった。

体はちょっと痛かったが、たいしたことは無かった。
その辺は先輩たちもわきまえている。

薬師寺は自分の行動の良し悪しがわからず、
そのうちなんだか馬鹿馬鹿しくなって、
溜め息とともに立ち上がる。




______おせっかいで悪かったな。



_____いや・・・・ありがとう・・・・。



うつむいたまま、小さくごめん、とつぶやく姿に、
同い年の少年らしさを垣間見て、薬師寺は少しうれしくなった。



_______俺さ、昔さぁ・・・・・・。



はじめは野球の話だったが、そのうちたわいのないバカ話になる。

やがて辺りがすっかり暗くなっても、風が少しつめたくなったことも気にせずに、
二人はずっと公園のベンチで話し込んでいた。




眉村の屈託のない笑顔を、初めて見た日。


何故かその思い出だけは、ずっと忘れないまま・・・。




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こんな日がくることを、
あの日の自分は予感していたのだろうか?



時を経て薬師寺は、眉村が投手として、
常にとてつもないプレッシャーと闘っていることを知る。



自分でもごまかせないくらい、彼への感情を無視できなくなったとき、
薬師寺は決心した。




彼を支えて守りたい。

最も親しい友人として。





______だからただ、お前の傍にいよう。





・・・・そう、決めた筈だった。







<終>

2007年3月26日

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