傍らに君が 3






二年の夏。





甲子園のスタンドから見るグラウンドはまぶしくて、来年そこに自分が立つことをイメージしても、
今は実感がわかない。
来期のレギュラーを期待されているのはわかっていたが、課題はまだまだ山積みだと思っている。



今日ベンチ入りしている2年は眉村と阿久津だけだ。


眉村は投げるのだろうか?



ああ見えて、実はとてもプレッシャーに弱いことを知っていた。
一人緊張と戦っている彼を思うと、薬師寺はなんだかもどかしかった。


来年は必ず、同じ土を踏んでいることを強くイメージした。



3点リードの7回表、エースにかわって眉村が出てきた。
何の心配もなく、無失点で押さえていた。



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宿泊先に戻ると、珍しく眉村の周りに2年生が集まっていた。
一足先に甲子園の舞台に立ったスターを賞賛していたが、当の本人は
当たり前のような顔をして、いつものように口数も少なかった。



何故かその輪に入れずに、自分の部屋へ行こうとしたら、廊下で佐藤に話しかけられた。



「眉村と、喧嘩でもした?」

やさしく問われ、ため息が出る。

「いや・・・別に」

それが、佐藤の望む答えではないことくらいわかっていたが、
だからと言ってすべてを話すほどお人好しではない。


一軍との壮行試合を経て、茂野吾郎が出て行ってから、佐藤は自分のことを、
・・・正確には、自分と眉村のことをやたらと心配しているようだ。


最近、眉村を避けていたのは事実だった。


答えはいたってシンプルで、
自分の気持ちが抑えられなくなるのが怖いだけだ。

それなのに、やはり傍にいたいと思う矛盾した自分にイライラしていた。



眉村への気持ちは日に日に強くなる。
過ぎた友情だと自分に言い聞かせても、もうどうにもならないくらいに。


佐藤はそれに気付いている。


「ねえ薬師寺?前はもっと、眉村と仲良かったじゃない?」

「だから・・・なんだよ。別につるむ必要ねーだろ?」

「僕はなんだか・・・さびしいな。 」


それは何を思って言った言葉なのか、なんとなくわかるような気もした。
自分と眉村がどうだとか、妙に世話を焼いて、何かを忘れようとしてる佐藤が痛々しかった。


「ダチの喧嘩の仲裁でもするっていうのか?余計なお世話なんだよ。」


・・・・・言い過ぎた、と思った。少し驚いて、でも優しい笑顔でごめん、という佐藤に、
心の中で謝っていた。


空が曇っていた。




海堂高校は難なく二回戦を突破した。





<終>



2007年8月16日


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