cencaさんに捧げます。
大河→吾郎 (友情出演: 寿也 ・ 薬眉)
前回の続きです。
ちなみに、いまさらですが、プロ入り後数年経過してる設定の、未来のお話。
みんな de ゴルフ 番外編
「ふーさすがに寒いねー!」
まだかじかむ手先に息を吹きかけ、寿也が帽子をかぶりなおした。
残り少ないオフシーズン。各自自主トレに入る前にもう一度、という約束が実現し、
4人はまた、ゴルフコースにいた。
真冬のフェアウエイはさすがに青々とはしていないが、
それでも、澄み切った冬の空はどこまでも美しく、
葉の落ちた木々と、針葉樹とのコントラストもまた、映えていた。
「今日はこないだみたいにはいかねぇぜ」
「ほぉ、ま、あまり期待はしてねぇよ」
「・・・俺、やっぱりお前のこと嫌いだ・・・。」
「好かれるつもりもないな。」
めずらしくやる気のある吾郎と、準備万端の薬師寺の楽しそうな会話。
それを完全に聞き流しながら、
眉村はスコア表を見ながらコースの予習に余念がない。
「今日はキャディさんをお願いしておいたよ。このコース難しいっていうから、
いたほうがいいかなと思ってね。」
ストレッチをしながら、寿也が言った。
四人で気楽にやれるのが醍醐味だと思っていた吾郎は少し不満げだ。
「キャディ?そんなもん要らないだろ?勝手にやったほうがおもしろ・・・」
「じゃあどうぞご自由に」
いつの間にか後ろに立っていた小柄のキャディの言葉に、
思わず振り向いた吾郎は驚きのあまり、大声をあげた。
「・・・何!? おま・・・大河ぁぁ!?」
「よろしくおねがいしまッス」
驚いて口を開けたままの吾郎を尻目に、
丁寧に3人に挨拶する清水大河。さすがに寿也もびっくりしていた。
「あれ?大河くん!どうしたの?もしかしてアルバイト?」
「そうなんスよ、ゴルフ部のダチに頼まれて、時々一緒にやってるんです。
担当するお客様のメンバー表見て、僕も驚きましたよ。
まさか、皆さんとご一緒できるなんて。」
「へえー。でも君、器用そうだしね。じゃ、今日はよろしく頼むよ?」
にっこりと笑う寿也。薬師寺も眉村も、軽く会釈する。
「・・・あ、お前、そうか。聖秀高校の・・・?」
「は、ハイ!薬師寺さんと眉村さんとご一緒できるなんて、うれしいです。」
プロの選手への素直な憧れを瞳に輝かせつつ、大河はこの場ではしっかりと、
キャディに徹した。
「早速ですが、時間も押してるのでスタートしてもいいですか?
一番ホールは、ロングホールでパー5です。
最初はできるだけ長打で打ち込んでってください。」
サンバイザーにポロシャツ、ウインドブレーカーを羽織ったさわやかなキャディ姿。
吾郎は全く見慣れないその姿に、何やら落ち着かない様子だ。
一番手の眉村のスイングを後方で見守りながら、小声で大河に話しかける。
「何やってんだよ!?大学で野球してたんじゃねぇのかよ!?」
「野球部だってちゃんとやってますよ。バイトくらい何やったっていいじゃないですか。」
「・・・そのカッコ、似合ってねぇぞ」
「その言葉、そのままお返ししますよ。・・・・次、センパイの番ですけど」
すっかり調子が狂った吾郎の第一打は見事に右に大きくそれていく。
なんの躊躇もなく大声でOBを告げる大河を、吾郎は忌々しく睨みつけた。
・・・・・・・・
アルバイトとはいえ、ちゃんと教育されているのだろう。
体力もあり、よく気がつく大河のキャディは申し分なく、
4人のプレーは、順調に進んで行った。
「あ、薬師寺さん、ここの芝目のライン、実はちょっと上りぎみなんですよ。
強めのパットで大丈夫です。」
アドバイスどおりに打ったパットが見事に入ると、薬師寺もまんざらではなさそうだ。
また、アプローチで使用するクラブを迷っている眉村にも、
「眉村さんなら、9番アイアンでいけると思いますよ。」
と、はっきりと言う度胸もある。
大河のおかげで、いつもより調子のいいメンバーたちは、楽しそうにコースを回っていた。
吾郎以外は・・・。
「で、センパイ、バンカーショットのあとはちゃんと砂直してくださいよ」
「お前、気のせいか、俺だけ態度違うみたいだな・・?」
顔はにこやかな笑顔だが、声は怒声で凄みのある、
不思議な形相で吾郎は大河にくってかかった。
それをヒラリと流して、大河はいたずらっぽい顔で笑う。
「センパイの場合はまずはルールから叩き込まないと・・・」
「こら!馬鹿にするな!」
そんな二人を見て、聖秀高校って、上下関係厳しくないんだね、と寿也が言うと、
あとの2人もあきれた顔で笑っていた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
昼の休憩のあとは、少し難易度の高いショートホールから始まった。
(・・・それにしても、この二人、仲いいなぁ・・・)
大河は薬師寺と眉村を見ながらしみじみ思っていた。
眉村がちょっと困った顔をしていただけで、ああ、俺の使えよ、
とすぐに自分のティーを差し出す薬師寺を見ると、
何やらこちらが照れてしまうくらいだった。
(まあ、こっちほどじゃないけど・・・)
チラリと反対側を見ると、吾郎と談笑する寿也と目が合った。
慌てて知らぬ顔をした。
そんな大河の心中を知って知らずか、寿也は笑顔でアドバイスを求める。
「大河くん、池超え狙ったほうがいいかな?それとも、迂回すべきかな?」
「佐藤さんなら思い切って狙っていいんじゃないですか?」
少しだけ、動揺してしまったことを気付かれまいと、大河は
寿也に、丁寧にホールの特徴を説明した。
「・・・そっか。うん。ありがとう」
寿也はコース前方をしっかり見つめると、
しなやかなスイングで、豪快なショットを繰り出した。
その打球は見事に池を超え、まっすぐフェアウエイへと
伸びていく。
「ナイスショットです。佐藤さん。」
「お、やるねぇトシ。大河、俺にもなんか言うことねぇの?」
頭の上で腕を組みながら、当然のような顔をしている吾郎を見ると、大河はそっけなく言った。
「茂野センパイはガーーッと打てばいいですよ。ガーーッと。」
「お、お前!!なんだそのアバウトっぷりは!?」
「だって、ごちゃごちゃ言わないほうが上手く打てるタイプじゃないスか。」
「・・・・まぁ、そうだけどよ・・・」
褒められてるのか馬鹿にされてるのかイマイチ納得のいかない顔で、
吾郎がティーグラウンドに立つ。
引き締まった背中と、しなやかな腰周り。
高校時代一緒に汗を流していた頃よりもずっと、しっかりした体格になっている吾郎の体を
大河は今日はじめて、まじまじと見る。
(ちぇ・・・かっこいいなぁやっぱり)
オフに帰国する度に、会う機会はあっても、こんなに一日中一緒にいることなんて
高校時代以来かもしれない。
夢中で追いかけていたのは、白球だけでは無かったあの頃を思い出し、
大河は懐かしそうに目を細めた。
その視線の先で、吾郎の腕がゆっくりとバックスイングしたかと思うと、
空を斬る鋭い音とともに、ボールが真芯に当たる音が小気味よく響く。
そして、その球は真っ直ぐに空へと伸びてゆき、美しい弧を描いて
グリーンにワンオンした。
「ナイショ!!吾郎君!」
「お!いい当たりだな!」
「しかも一番ピン傍だ・・・・。」
3人から軽く拍手をもらい、吾郎は素直にうれしそうだ。
そして大河の頭をクシャクシャと撫でて、
「お前やっぱ俺のことよくわかってるよなぁ?」
と、輝くような笑顔を向けた。
(・・・・また不意打ちで・・・・)
真っ赤になって動けなくなった大河をティーグラウンドに残したまま、
フェアウエイを歩く4人の影が、冬のゴルフコースに伸びていた。
____おーい大河!早く来いよ!
大好きな人が振り返った。
体は自然に、走り出していた。
<終>
2008・2・3
back to novel menu
|
|
|