6月妄想です。





「プロポーズは突然に」






その願いを胸に抱いたのは、きっと薬師寺が先だっただろう。
だが、それを口にしたのは、眉村の方だった。

「・・・・どういう・・・ことだ?」

「この先の人生を、俺と共に歩んで欲しい。」

薬師寺は耳を疑った。
あまりのことに、はぁ?という可笑しな声しか出ない。

交流戦が終了し、リーグ戦が再開されるまでの、
つかの間の休みだった。
それでもシーズン真っ只中のこの時期に、
将来のことを言い出すなんて、
一体眉村に何があったというのだろうか?

「まさかお前、また怪我でもしたんじゃ・・・」


すぐよからぬことを考えてしまうのは薬師寺の悪い癖だと、
眉村は彼を睨んだ。

「別に、そう思ったから言ったまでだ。」

「それにしたって・・・」

・・・・こんな日に、こんな場所で言う必要ないだろう?
と、薬師寺は顔を赤らめながら小声で言い捨てる。


二人でなんとなく出かけた帰りに寄った、
幹線道路沿いのコーヒーショップ。
頭上にはアメリカの大型チェーン店のロゴを掲げた看板がゆっくりと回っている。
平日の昼下がり、店内は人もまばらだが、
店内にはスタッフの明るいオーダーが響き渡っている。

おまけに外は梅雨時の雨色一色。
薬師寺が密かに思い描いていたような
プロポーズのシチュエーションには程遠い。

「お前が言い出すのを待っていたほうがよかったか?」

柔らかな笑みをたたえた恋人は、
クリームのたっぷり入ったカフェモカを一口飲んだ。
こうして窓際のソファ席で向かい合ってくつろぐ男二人が、
人生の岐路に立っているだなんて、おもしろいじゃないか、といわんばかりに。

「・・・・いや。」

薬師寺はアメリカンコーヒーのカップを揺らしながら、
深くため息をついた。


「俺には無理だよ。」

自分にはきっと言えない。

来期に向けて、いくつかのメジャー球団が、
眉村獲得にむけて動いている、と耳にしてから、
二人の未来を考えないようにしてきた。
彼を一生愛し続ける覚悟はあっても、
自分に縛り付ける勇気は無かった。

「全く・・・やってくれるぜ。イキナリすぎるぞ」

「・・・・今すぐ返事をくれなくてもいい」

眉村は淡々と語った。
俺は弱いんだ。
たった一言の誓いだけでいい。
どこにいても、お前と繋がっていられるという確証が欲しい。
それほどまでに・・・・。

その先を言いよどむと、恋人はふいに横を向く。
さすがに照れたのだろう。
赤みの差した頬がいつになく愛しい。

狂おしいほどの幸せに包まれて、薬師寺は小さく呟いた。

「ちゃんと返事しないとわからないか?」

まっすぐに見つめる薬師寺の視線を、眉村が受け止めた。


手を握ることもなく、
キスを交わすことも無く、
二人が永遠に結ばれた、6月のある日のことだった。



<終>







まさかス○バで、しかも眉たんから、になるとは思いませんでした(汗)
妄想って書いてみないとわからないものですね。


幸せ妄想って楽しいv




2009年6月26日



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