<ルームサービス>
                   
 むつみ







ドアをノックする音で先に目が覚めたのは寿也だった。


___ルームサービスです。


ああそうか、昨日頼んでおいたんだっけ、とつぶやきながら、
寿也は、遅めの朝食をベルボーイから受け取った。


あらためて部屋を見渡すと、一流ホテルのスイートにふさわしい、
広いリビングと洒落た家具。
さすがメジャーリーガーだよなぁ、と寿也は座り心地のいい
ソファに身を任せ、しばし、昨夜の余韻に少し浸ってみる。
その相手といえば、隣のベッドルームで軽くいびきをかきながら、
気持ちよさそうにまだ眠っている。
広い部屋のほうが落ち着くだろ、なんて笑っていたのがなんとも彼らしい。


吾郎は、日本で行われるメジャーリーグ開幕試合のために一時帰国していた。
明後日には、寿也のいるチームと対戦するのだ。
プレシーズンマッチという、エキシビジョンであっても、
久しぶりに対戦できるかと思うと、寿也の胸はワクワクする。


と、同時に覚えた、激しい空腹感。
天井を見上げていた体勢を元に戻せば、目の前には朝食の乗ったルームサービスのワゴン。
いくつもの銀色の楕円形の蓋には、自分の顔が横に歪んで写っていた。


我慢できなくなって、つい、一つだけ大きな蓋を開けてみる。
出てきたのは、みずみずしい果物の載ったプレートだった。
その鮮やかな色と、大きさに、寿也の喉がゴクリと鳴った。

「ひとつだけならいいかな・・・・・」

既に手は伸びていた。
そして、今が旬の宝石のような真っ赤な果物を、
そっと口に運んでみる。

「・・・・・おいしい・・・」

新鮮さを象徴するような歯ごたえを感じたかと思うと、
すぐに甘酸っぱい果汁が口いっぱいに広がり、鼻腔に抜けた。
その幸せな甘さに、ついつい、もう一つ、もう一つ、と手が伸びる。

あっというまに、皿の上は空っぽだ。

「ごめん吾郎クン・・・全部食べちゃったよ」

無意識に独り言を言いながら、手についた果汁と、口周りを拭こうとバスルームに向かった。

ちょうど吾郎が起きてきて、
洗面台の前でバッタリと鉢合わせした。

「あ、お、おはよう!」

「寿!?お前!?」

寿也の顔を見た吾郎が驚いてその顔を指差した。
ほんの少しの罪悪感があった寿也は思わず目をつぶって言い訳を考える。

「わ!ごめんこれは・・・ふ・・・」


言葉の続きはキスで遮られた。
いや、正確には吾郎が、寿也の唇の端についていた赤いものをそっと舐めたのだ。

「!?」

吾郎は何か味わうように口を動かし、不思議そうな顔をした。

「吾郎くん・・・どうかした・・・?」


「なんだこれ・・・血じゃなくて・・・・・・なんかすっげー甘くていい匂い?
お前・・・なんか食った?」


「い、苺だよ・・・」


恥ずかしそうに顔を赤らめて、バツの悪そうな顔をしながら、寿也は小さく答えた。
いくらお腹がすいたからといって、いくら好物だからって、
つまみ食いのつもりが全部食べてしまったなんて、すぐには言えなかった。

「なんだ!そうかぁ! お前の口に赤いものついてたから、てっきり血がついてたのかと思ったぜ!」


あっけらかんと笑いながら、いやぁ昨日噛み付いたような気がするし、と小さく呟いて
目線を泳がせてみる
そうやってふざけた顔をした吾郎を、寿也はおもいっきり怒鳴りつけた。

「馬鹿!変なこと言うなよ!?」

「そんなに怒るなよ。全く・・・・・・。」

「だって君が___」

「で、その苺どこにあるんだよ?俺も食いてぇんだけど。」

「え!?いや、あの、その・・・」

「どうした?」

「う・・・だって吾郎君、確か、苺あまり好きじゃないだろ・・・?」

申し訳なさそうな視線の先には、すっかり平らげられてしまったフルーツ皿。

「あぁー!?」

「ごめん。」

大げさなリアクションで寿也をジロリと睨む吾郎。
反射的に首をすくめた寿也は、しおらしくもう一度謝った。


「じゃ・・・・・・これで我慢する。」

「え?」


吾郎は、体いっぱいに苺の香りのする寿也を抱き締め、深く口付けた。
その唇はやはり甘酸っぱく、吾郎を酔わせた。

甘い沈黙の後、瞼を開けた寿也が吾郎を見上げた。
なんとなく照れるけど、ちょっと言ってみたいセリフがあった。

「・・・・・・おいしい?」

「うん。旨い・・・でも、もうちょっと食わせろよ。」


そのまま吾郎の手は寿也の胸元へと伸びた。
寿也は、ああやっぱりそう来るかぁ・・・・・・とぼんやり思いながら、
さっきまでの空腹感が吹きとんでいる自分に呆れたりもした。


壁際のルームサービスのワゴンが、
お二人さん、朝食が冷めてしまいますよ、と言いながら、
二人を見守っているようだった。



<終>










Natsukiさんへ 


うん、これはやっぱりゴロトシかなぁという妄想を形にする
背中を押してくださってありがとうございましたv
こんなに甘い二人を描いたのは初めてでしたが、(照)
とても楽しかったです。
「二人がキラキラしてる」という、うれしい感想をありがとうございました。
日ごろの愛と感謝を込めて・・・。

喜んでくださって本当によかったv




むつみより

2008/3/20


*プラウザを閉じてお戻りください