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寿くんお誕生日記念
 SS 2008年




<初秋の夜に>




2008年9月9日。セリーグのペナントレース終盤戦。
ここにきて、首位のチームが連敗し、二位のウオリアーズは驚異の追い上げで
ゲーム差は3・5にまで縮まっていた。
もしかすると、奇跡の逆転も夢じゃない。
この時期になり、チーム本来の打撃力の爆発がようやくカタチになるゲーム展開
にもっていけることが多くなった。
バッターボックスに立った佐藤寿也も、それに貢献したいと、硬く表情を引き締める。


_____さあ、このチャンスに、本日スタメンマスクの佐藤寿也。
おや、ハッピーバースデーの歌がきこえますねぇ。

実況アナウンサーの解説とともに、テレビ画面には満員の観客席が写された。
外野席に掲げられる無数のプラカード。ハートマークとともに、
誕生日を祝うメッセージがたくさん書かれている。


_____カウントツーナッシング。追い込まれました佐藤。
次の一球打ちました!痛烈なライナーだ!!ショートが飛びついたが捕れない!


ゲームの均衡を破る一打に、歓声が沸きあがる。



* **




だが結局、試合は話題のルーキーの初勝利を願う相手チームの
団結力の前に敗れた。
一方、一位チームはデーゲームの延長戦を制し、ゲーム差はまた開いてしまった。


試合後の取材で、寿也は
「一位チームの背中を見てるわけではなく、優勝という目標をみて走り続けるだけです。」
と毅然として言い切った。
悔しそうに宙を見つめるその目に、優勝への執念が燃える。


しかし、車で球場を出る頃、寿也の表情はまた違うものとなっていた。
何か別に心配なことがあるような顔をして自宅に戻った寿也は、
何よりも先にパソコンをチェックした。
目線の先は他球場の試合結果・・ではなく、メジャーリーグのページ。


「・・・吾郎くん。」


その表情にいくらか曇りがあるのは、昨日知った吾郎の途中降板のせいだった。

(どこか故障していないといいけど・・・)

何か体の不調ではないかという記事に、
今日一日、もやもやと胸騒ぎを覚えていた寿也は、
詳しい情報を探して、夢中でネットの海を漂った。

その時、テーブルの上に無造作に置いたままの携帯電話が鳴った。
寿也はちょっと煩わしそうな顔でいつまでも鳴るそれを手にとるが、
表示された名前に目を見開いた。

____もしもし、寿?

「吾郎君!!」

驚きとともに、寿也は今知りたい情報を得るために、
間髪いれずに本人に聞くことをためらわなかった。


____どーだ?寿のチームは勝って・・・


「背中の具合はどうなんだよ?また無理してたら承知しないよ!?」


____あ?な、なんだよ突然。


「だって、昨日途中降板したって記事をみつけて・・」


____なんだよ、大丈夫大丈夫。ちょっと疲れが出る時期だから
大事をとらされたんだよ。俺はもっと投げたかったんだけどよ。
てか何で知ってるんだ?


「いや、君の記事をみつけて・・・どこか故障だって書いてあったから・・・・」


___まったくどこの誰だよ?いつも大げさに書きやがって・・・・。


電話の向こうでけらけらと笑う様は、調子のよいときの吾郎の声。
寿也は心の底からホッとして、安堵のため息をついた。


「よかった・・・・。本当によかったよ。でもめずらしいなぁ。
吾郎君がちゃんと僕に報告してくれるなんて。」


___違ぇよ。いちいちそんなことするか。


「な、なんだよそれ!」


___お前、今日俺がなんで電話したかわかってんの?


「え?」

___俺、お前の誕生日を祝いたいんだけど。


「・・あ。」


___もしかして、忘れてた?


「いや、忘れて・・・ないよ。球場でもプレゼントもらったし・・・」

そう。確かに今日は自分の誕生日。観客席に掲げられたメッセージカードや、
初打席でのハッピーバースデー応援歌は、寿也にちゃんと届いていた。


だがそのことよりも大事なことで寿也の頭はいっぱいだったのだ。
今、吾郎の口からききたかったのは、彼の無事だけ。
それだけだったから。


___じゃあ言わせてくれよ。誕生日おめでとう・・・てよ。

「あ、ありがとう」

胸の奥がちょっとくすぐったい。そして、
彼がいつもどおり元気だということがわかると、
急に恋人に甘えたくなるのも人情である。

「・・・で、他に言うことはないの?」

___んあ!?

面食らった吾郎の声をよそに、寿也は平然と続ける。

「愛してる、とか、寿だけだよ、とか、たまには電話で言ってみなよ。」


___言えるか!?


「へぇえ。人がせっかく心配してあげたのに・・・君ってほんと恋人に冷たいよねぇ・・・」

___勝手に心配してたくせに!!


クスクス笑いながら、寿也は電話口で言いたい放題である。
確かにひとりで気を揉んでいたことは事実だが、今日はそれも許されていいはずだ。
せっかくの誕生日なんだから、
電話越しに海の向こうの恋人にワガママを言ってもいいだろう。
寿也はいたずらっぽく笑うと、久しぶりの吾郎との会話を楽しんだ。


「それに、今年も電話だけ? 確か去年、来年はおいしいものが届けるよって
言ってたような気がするんだけど・・」


___わ、わりいわりい!今年は間に合わなくて。来年こそなんか送るから!
そうだ!!お前の好きなアイスクリーム詰め合わせ!


「・・・君がそんな手の込んだことできるとは思えないけどなぁ。
僕は君の誕生日だったら・・・」


___あーもうわかったわかったよ!悪かった!畜生、なんで俺謝ってるんだ?


寿也の脳裏に、電話を片手に、くしゃくしゃと頭をかきむしるような
吾郎の無邪気な姿が浮かんだ。
今すぐ彼に触れたい、と強く思うけれども、
それが叶わないことを嘆くより、
今、こうして時を越えて繋がっている幸せを噛み締めたい。


(いいんだよ。元気な君の声が聞けることが、いつも一番のプレゼントなんだ)


寿也は今日はじめて、自分の誕生日の嬉しさに浸ることができた。
時折高らかな笑い声を交えながら、二人の会話は、
初秋の夜にいつまでも続いたのだった。







~海超えて 届く愛しき その声に 
       世に生まれし日の 喜びを知る~






【終】







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「自分の誕生日なんて二の次、な寿くん」を書きたかったのでした。。。
ベタでごめんなさい!!突貫で書いたのでお許しください。
なにはともあれ、寿くん、誕生日おめでとう♪

2008・9・9
*なお、劇中の野球チームは、フィクションであり、実在するものとは
無関係です(なんだか変な意地)


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