30000hit記念に頂きました。(感涙)

以前、平蔵さんがご自身のサイトにて掲載していた薬眉小説に、
ワタシが感動のラブコールを送ったことがありました。
すると、なんと続きのお話を書いてお祝いに下さったのですよ!!
うわーんありがとうございます!!



サイト掲載時に、幸せな薬眉、ではありません、との注意書きがありました。
確かに切ない、大人向けです。







でも、読んでいただきたいです・・・。

















<雪原にて>    auther 平蔵様







少し遠出しないかと眉村から電話を受けたのは、三日ほど前の深夜だった。
珍しい誘いに少し驚いたものの、薬師寺が了承すると待ち合わせの時間だけを言って電話は切れてしまった。
「どこに行くんだ?」
 珍しく助手席に座った薬師寺は、隣に座る涼やかな美貌に目を走らせたが、
ハンドルを握る彼は無言のままだった。
「着いたら起こしてやるから、寝てろ。うるさい」
「…へいへい」
 溜息をついた薬師寺は、大人しく目を閉じた。

「…懐かしいな」
 寝たふりをしていたが、いつの間にか本当に眠っていたらしい。
 肩を揺すられて目を覚ますと、周りは一面の銀世界だった。
「温泉にでも行くつもりか?」
 十分ほど歩くと、ひっそりとした温泉宿がある。
 二人の目の前には足跡ひとつ付いていない、まっさらの雪が積もっていた。
 大きな道路から少し離れているために、わざわざ来ようとする物好きはいないのだろう。
 封印したはずの痛みが胸の奥から湧き上がり、薬師寺は拳を握った。
「…少し、歩かないか」
「…あぁ」
 眉村に促されて、彼は足を踏み出した。
 そこは、十年前に薬師寺が別れを切り出した場所だった。

 前を歩く眉村は無言だった。
(前と同じだな…)
 十年前も、同じように彼の背中を見ながら歩いたものだ。
 あの頃よりも愛しい人の背は伸び、身体つきも変わった。
 期待のルーキーは、今では球界を代表するエースとなった。
 山間に沈む太陽の残照が、雪に埋もれた木々を照らして異様な影を雪原に落としていた。
 沈黙を破ったのは、眉村の方だった。 

「結婚することになった」
「…え」

 まるで天気の話をするように、眉村は切り出した。
「今年のシーズンが終わったら、結婚することにした」
 以前に紹介されたことがある、年上の球団スタッフだろう。
 絶世の美女というわけでもなかったが、眉村を支えてくれる女性だと思った。
「…そうか」
「結婚式、出てくれるか」
「勿論だ。…おめでとう」
 そう言う以外、薬師寺に残された言葉はないのだ。
 十年前、彼の手を放してしまった自分に引き止める権利はない。
「わざわざ、それを言うために誘ったのか?」
 わざとらしく肩を竦めると、眉村は緩く首を振った。
「…わからない。でも、お前に言うなら、この場所が似合うと思った」
「…そうか」

 風で乱れた眉村のマフラーに指を伸ばした薬師寺は、そのまま眉村を抱き寄せた。
「お前のことが本当に好きだったよ」
「…あぁ」
 数瞬の間だけ、眉村の腕が背中に回されて二人は抱き合っていた。

「おめでとう、幸せになれよ」
「…ありがとう」
「帰ろうか。ピッチャーに風邪を引かせたら大変だ」
 踵を返した薬師寺は、行きとは違うルートに足を踏み入れた。
 白い雪を踏みつけながら、靴に染み出してくる冷たさを感じながら、薬師寺は思った。
 十年前、足跡が付いてない雪原に踏み出す勇気があれば、今繋いでいる手を離さずに済んだのに、と。




 雪原からの帰り道、二人は無言だった。
 異形の影を落としていた太陽はとうに沈み、白々とした月が雲の隙間に鎮座していた。
 薬師寺のマンションへの曲がり角を、眉村は左折しなかった。
「おい、眉村…?」
 いぶかしむ薬師寺をよそに、眉村は無言でハンドルを握っている。
 市街地を通り抜け、人気のない廃工場の前で車は停まった。
「どうかしたのか…っ!!」
 シートベルトを外した眉村が、助手席に圧し掛かってきた。
「おいっ…んっ」
 深く口付けられて、薬師寺はもがいた。
「眉村…っ」
 肩を掴んで引き剥がすと、戸惑いや悲しみ、自嘲と欲望が綯い交ぜになった奇妙な表情をした男がいた。
 黄金の右腕という表現すら霞む腕が伸ばされて、薬師寺の唇に触れた。
 その仕草に彼は瞠目し、深い息を吐いた。
「…いいのか」
  空気を震わせるような声が、狭い車内に響く。
「何も言わないでくれ…」
 目を伏せた男の右手の甲に恭しく口付けると、薬師寺は倒したシートに眉村を横たえた。


交接は密やかに行われた。
人通りは皆無の場所で眉村は声を必死に押し殺し、薬師寺も無言だった。
互いの背に回された腕が、深く絡んだ腰や唇が、堪え切れない声と熱い息遣いが、二人の会話の全てだった。

「大丈夫か?」
 薬師寺のマンションに帰り着き、エントランスに車を寄せた眉村の顔色は青白かった。
「あぁ…」
 深く息をつく眉村の乱れた髪に手を触れそうになった薬師寺は、さり気なく腕を引いた。

 もう、触れてはいけない。

「…気をつけて」
「あぁ」
「結婚式の日取りが決まったら、知らせろよ」
「あぁ」
「友人代表のスピーチは、佐藤にやらせろ」
「そうだな」
 視線を絡ませないままの会話だった。
「もう行った方がいい」
「…あぁ」
 頷いた眉村は、静かに車を発進させた。
 遠ざかっていく赤い灯を、薬師寺はいつまでも見送っていた。




<終>





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平蔵ざぁ・・んん(涙声)


前半を読んだとき、そして、頂いた後半を読んだ時も、
涙で画面が滲みました。うう・・。ホントです。
どうしよう。こんな彼らも大好きなんですよ!!!!!!!
ワタシの脳内にはけっこういろんな薬眉があって、
なんていうか、お互い相手を想っているけど、
一緒にはいられない、という、一番、実世界に近いような、
そんな二人もいるんです。
だからすごく、胸に響きました。
だってこの二人、きっと今でも本当は・・・。
うわーどうしよう。また泣けてきちゃった(馬鹿ですいません)


素敵なお話をありがとうございました!!
心から感謝いたします!!


2009・3・9


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