<夏の続き> 2








「茂野センパイたちの雪辱を晴らす」

大河はこのセリフを、おおげさなくらい、何度も繰り返してきた。
正直、当の吾郎が海の向こうでそれを望んでいるか、なんて、わからない。
それでも、この目標にどれだけ支えられたか。

もう一度、海堂と戦うこと。
同じ高校の野球部としての繋がりしか無い自分には、
それだけが、あの人を想うことが許される道だと、大河は思い込んだ。
逆に言えば、あの時同じスタジアムで戦った自分にしか出来ないこと。
故に、誇らしくもあった。


しかし、その道は無残にも絶たれてしまった。現実なんてこんなものだ。
もはやこの感情とも決別しなければならないだろう、と大河は思った。
緊張が切れた反動なのか、それともただの勢いか。
理由なんかどうでもいい。
数え切れないほどの思い出がつまったこのグラウンドで、新たな自分に生まれ変わろう。
何故か大河は、そうしなければならないと思ったのだ。


「・・・わかったらさっさと行けよ。」


だから容赦なく、渋谷を拒絶した。
今日だけは一人、佇んでいたかった。
あからさまに憮然とした態度を示した。
それが、彼のためでもある、と大河は苦笑する。
だが、目の前の後輩は、ひるむことなく、まだ、自分をみつめていた。


「今日は・・・すいませんでした。」

「あ?」

「俺が、キャプテンを塁に帰すことができていたら・・・」

「何勘違いしてんだお前。お前一人に、あの試合の勝ち負けの責任があるとでも思ってんのか?
うぬぼれるのもいい加減にしろよ」

「そんなこと思っていません。俺は・・・俺はただ・・・」

真剣な渋谷の表情を見て、大河は少し焦った。
そうじゃない、彼が言おうとしてることは違うことだ。

(言うな。俺は受け止められない。)

大河は思わず、耳をふさいだ。そのまま渋谷の横をすり抜け、走り去ろうとした。
だが、伸びてきた後輩の腕が、大河の前に立ちはだかる。
そのまま、後ろから抱き締められてしまった。

「キャプテン、俺」

「黙れ!」

大河はこんな日が来ることを恐れていた。
自分を見つめる瞳に、何がこめられていたのか、気付かない振りをしていた。
少しでも甘い顔をしては酷だと思ったから、必要以上に辛く当たった時もある。
なのにこの生意気な後輩は、全くめげずに試合前にこう言ったのだ。

「キャプテンを甲子園に連れて行くのは俺ですから。」

全く、人をなんだと思っているんだ。
どこまでも馬鹿で、どこまでも真っ直ぐな奴。


「離せよ。」

「嫌です。」

「ふざけんな!!」

「俺は・・・俺は貴方が__」

「言うんじゃねぇよ!!。」

言ったらお前が傷つく。
大河はその腕から逃れようと、ジタバタともがいた。だが、この体格差だ。
渋谷の腕は、自分を捕らえて離さない。


「・・・好きなんです。」


お前、本当に馬鹿だな・・・。

体中の力が抜け、もう、抵抗する気力もなかった。
背中越しに、相手の体温を感じた。
耳元で、渋谷は淡々と、自分への気持ちを語っている。
来年は海堂を倒すだの、それを見ててほしいだの、勝手なことばかり。

同性から特別な好意をもたれることに、嫌悪を感じる前に、
それでも自分の心の中にいる別の人物の影を消し去ることができない自分を、
大河はやるせなく思うしかなかった。
こうなってしまった以上、はっきりと言うしかない。

「・・・・で、俺をどうするつもりだよ。」

いつまでも女のように抱き締められるなんてごめんだった。
その言葉に、渋谷はハッとして、彼を開放した。
自由になると、大河はすぐさま彼から二、三歩離れる。
そして、振り向こうとしたのだが、情けないことにどんな顔をしていいかわからない。
結局背を向けたまま口を開く。

「・・・・悪いけど・・・」

「すいません・・・・俺、ただ伝えたかっただけなんです。」

大河の言葉を遮る渋谷の声に戸惑いの色は無い。
答えを待っている様子も無い。
その清清しさにこめられた何かに、大河は気付いた。

そうか、お前も自分の気持ちに決着をつけにきたのか。
真っ向勝負で答えを出そうとしているのか。
なんでそんなに馬鹿正直なんだよ、お前。


「だから、俺も同じ夢、見てもいいですか?」


ああ、こんな風に胸の内を伝えられたら、自分も楽になれるのだろうか?


後輩エースの潔さに、悔しさが湧き上がる。
もしかしたら、自分は心のどこかで、コイツをうらやましく思っていたのかもしれない。


お前なんか、あの人の足元にも及ばない。
全然、似てない。

胸の中で呪文のように唱えた。



それなのに、口をついて出た言葉は、抗う心とは裏腹だった。



「じゃあ、・・・やってみろよ。」



ゆっくりと振り向いた大河を、渋谷がもう一度抱き締めた。








<終>










20000hit記念リクでしたv 
なぜかシブタイ熱にうかされていたので、イキオイのまま生まれたのですが・・・・。
ワタシが書くとこうなっちゃいました(汗汗汗)クサくてすいません!!
キャラ崩壊がはげしくてほんとごめんなさい!!(土下座)
でも渋谷大好きでなんです。がんばれ!!シヴィー!!(笑)

ご迷惑でなければcencaさんとわかばちさんに捧げます。
ありがとうございました!!

続きはcencaさんが書いてくれるそうです(真顔)




2008・8・14


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