渡嘉敷君目線の薬眉ssです。 夢見すぎ傾向です。 「伝わるもの、伝えるもの」 今日の眉村は少し調子が悪いのか、いつもより無駄球が多かった。 次の打者は左だ。前のランナーをフォアボールで出してしまったのだから、 この状況はおもしろくないだろう。 「変なとこでまだピッチャーの感覚残ってんだよなぁ。」 ぼそり、と渡嘉敷はつぶやいた。 シニアで投手として活躍していたことはもう過去であり、 別に未練があるわけではなかったが、こうして時々ピッチャーの心理状態にリンクして よけいな緊張を感じるのはいいのか悪いのか。 小さくため息をつくと、両肩を少し上下させた。 練習試合にしては少し苦戦しているエースの後ろで、渡嘉敷はいつもより深く守備位置を変えた。 もちろんベンチからの指示ではあったが、自分の判断で、打者の動きを予想して左右の位置を決める。 ボールカウント1−2から、眉村の放ったフォークが少し抜けた、と思った。 つよい当たりがセカンドの横を逸れそうになったが、打球は反射的に飛びついた渡嘉敷のグラブに上手く収まった。 そのままグラブトスをすると、カバーに入って来た泉が難なく処理する。 「よっしゃ!ラッキーラッキー。」 読みが当たり、ヒット性の当たりをゲッツーで仕留めることができたことに、渡嘉敷は満足を覚えた。 彼があまり動かずに容易く捕球できたのだから、傍目には眉村が上手く打ち取ったことになるだろう。 ___結果オーライってことだもんね。 別に眉村に褒めてほしいわけでもなければ、守備力を認められたいわけでもない。 この程度のプレーでいちいち反応するようなチームではないことくらい、入学前から知っている。 まるでプロのように、ミスもなく、完璧な守備を涼しい顔してこなしてみせる。 それはそれで快感なのだ、と、渡嘉敷が一人悦に入っていた時だった。 サードからふいに声がかかった。 「渡嘉敷!難しい球だったが、よく捕ったぞ。」 「げ。薬師寺・・・」 いつも全体をよく把握している薬師寺だけに、渡嘉敷が独断で守備位置を工夫したことも、 彼はちゃんと見ていたらしい。あからさまに大声で言うものだから、 他のメンバーからもナイスカバー!と声がかかった。 ひとしれず立てた手柄だからこそ満足していたというのに、これでは照れてしまうではないか。 渡嘉敷はそっけなく右手をあげて、照れ隠しにうつむいた。 (おおげさなんだよ全く・・・でも・・・薬師寺らしいよな) 見た目は派手だし、口も悪い薬師寺だが、彼の周りには不思議と人が絶えない。 海堂という大きな野球集団において、体格的に不利な渡嘉敷の長所を、いち早く認めてくれたのも薬師寺だった。 兄貴風を吹かす薬師寺に素直についてゆくのは楽だったし、何かあればすぐ相談しやすい相手だった。 そんな自分のように、心理的に彼に頼っている輩は、チーム内にも多いのだろう。 ___おそらく、うちのエースだって・・・。 渡嘉敷は帽子のつば越しにそっと眉村の方をみた。 薬師寺の声が彼の耳にも届いたらしい。改めて何かに気付いたような顔の視線が、薬師寺に向けられていた。 それを受け止めた薬師寺が、ちょっと首をこちらに向けて、何かを示唆している。 なんともいえない特別な眼差しは、二人の親密さをあらわしている。 ___相変わらず、仲のよろしいことで。 微笑ましいといえばそれまでだが、時折こうして当てられると、苦笑するしかない。 とはいえ、あの二人の間に立ちはじめた、妙に艶っぽい噂を勘ぐるほど野暮ではない。 男だらけの集団である。自分さえ面倒なことに巻き込まれなければ、勝手にやっていればいい。 渡嘉敷はイマドキの若者らしく、一歩引いた目線で二人を交互に見つめていた。 すると、眉村がこちらをふりかえったのだ。 鋭い視線に、どう振舞っていいかわからず、渡嘉敷は顔を引き攣らせてつとめて平静にふるまった。 「・・・・いやあコレくらいなんでもないって」 不動のエースに恩を着せるつもりなんて毛頭ない。むしろ、眉村は上手く打たせて取ったと思っていればいいのだ。 渡嘉敷はグローブを左右に振りながら、トレードマークともいえる八重歯を見せて愛想よく言った。 すると、眉村が帽子をかるくずらして、小さく微笑んだではないか。 (あの眉村が・・・礼を言った!?) いつも、すべてのアウトを自分でとったような顔をしてると思っていた。 こうして素直にねぎらってくれるような一面もあるのかと、渡嘉敷は目をまるくした。 そういえば、初めて会ったころに比べれば、眉村はずいぶん、後ろの守備に気を遣うようになった気がする。 __ふーん。じゃあ、これからもがんばっちゃいますかね。 渡嘉敷は小さくつぶやいた。 たったこれだけのことなのに、妙に気合が入った自分がおかしくて、クス、と笑った。 絶対的なエースとはいえ、自分たちが守ってやらないといけない場面もある。 そうさせるのは、マウンドから見せる投手の気迫であり、覚悟である。 薬師寺がいつも、しつこいくらいに眉村に声をかけてきた行為も、無駄ではなかったらしい。 次の打者に対して大きく振りかぶった眉村の背中を見つめながら、 自分たちのチームの新たな強さを見つけた気がして、 渡嘉敷の心が引き締まった。 「よーし!このまま一気に行こうぜぇ!」 珍しく高らかに声を上げた渡嘉敷と、それに応えるナインの軽快な掛け声が、明るい空に響いた。 <終> 野球のプレーに関してはド素人なので、どうかご容赦ください!!(汗) 雰囲気だけですいません。 これは、東のライオンさんへからいただいたコメントにレスをしていたら、 突発的に出来てしまったssです。 眉村がチームプレーを学ぶ影に、薬師寺の存在が大きいといいな、という 夢いっぱい妄想の一片なのです(照) 初めて渡嘉敷くんを書いた記念に、ライオンさんに押し付けました(すいません) 受け取ってくださってありがとうございましたv むつみ 2009・6・8 back to novel menu |