<第 11章 灼熱のステージ> ラフマニノフ作曲 ピアノ協奏曲 第2番 ハ短調 〜第一楽章〜 ↓※ 曲が流れます!!ご注意ください。 <一楽章> (10:52) 重厚なピアノの低音から始まる第一楽章。吾郎はその大きな手でもあまりある離れた音階を、 ほんの少しだけ音をずらして、自然と調和させる音をそのステージに解き放つ。 続いて始まる激しいスケールに対して、大海原のような弦楽器のテーマがゆっくりと重なる。 その見事なまでのコントラストに、瞬く間に聴衆の心が奪われる。 そして、柔らかな曲調のピアノソロのテーマが始まった。 吾郎の印象からは少し想像できない、繊細な音と切ない旋律が、 まるで異国で恋に落ちた旅人のように、ふわふわと響き渡る。 やがて旋律は次第に激しい波となり、トランペットのテーマが近づいてきた。 ピアノが主役の協奏曲。派手な交響曲に比べれば、金管楽器の見せ場はほとんどないけれど、 一楽章の荘厳な迫力は、やはり聴いているだけでも鳥肌が立つようだった。 そして大河は、吾郎が奏でるピアノに、追いかけるように重なるこの旋律を、 まるで自分のようだと思った。 聖秀高校のブラスバンドは人数も多くてレベルが高いから、 気楽にやれるオーケストラに入っただけだったのに。 吾郎の指揮を始めて見た時。 こんなにも雄雄しく、わきあがる情熱を余すところなく解き放ち、 ひきつけられる音楽に出会えたことに衝撃を覚えた。 ただ夢中で、その背中を追いかけていた。 そして、彼が何故、時々遠い目をしていたのか。 聖秀オケの練習の合間に、時々一人で、激しくピアノを弾いていたとき、一体誰を想っていたのか。 この三ヶ月で、嫌と言うほどわかってしまった。 それでも、少しでも、情熱的で激しいそのピアノに、自分の旋律を寄り添わせたかった。 _____届かなくても、いい。 大河は、静かにマウスピースを口にあてると、精一杯の思いをこめて、切なくも美しい 旋律を吹き、舞台一体に響き渡らせる。 その見事な出来栄えに、指揮者がトランペット奏者に微笑みかけた。 (・・・・どーも・・・。) _____あんたのためじゃない。 少しうつむいて、もう一度顔を上げた時、一瞬だけこちらを見ながら、ニヤッと笑ったピアニストと目が合った。 胸の奥が疼く。 テンポが速まり、ピアノのスケールが駆け上ったかと思うと、 厳かなユニゾンとともに、第一楽章が終わった。 _______あなたが好きでしたよ。センパイ。 いつか笑って言える日がくるのかもしれない。 → 第二楽章へ 11章トップへ back to novel menu