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ラフマニノフ作曲 ピアノ協奏曲 第2番 ハ短調 ~第二楽章~ ※ 曲が流れます!!ご注意ください。 <第二楽章> (11:29) ゆっくりとしたピアノと弦楽器の美しいアダージョが、静かに流れる。 長調なのに、なぜ短調のようなもの悲しい気持ちになるのか。 ピアノと掛け合う木管楽器の静かな響きが美しい。 長い休符の間、薬師寺は、譜面越しに眉村を見つめていた。 堂々たるその姿と、見事なまでの音色とテクニック。 自分が傍にいなくても、彼の未来は燦然と輝いていくだろう。 視線に気付いた眉村が表情を変えずにこちらを見た。 愛おしいその眼差しを受け止められずにうつむいた。 ただ黙って見守るだけでは駄目なのか。 薬師寺は、目の前のピアニストと指揮者が放つ、お互いへの深い気持ちに、 自分の押さえ込んだ感情が激しく揺り動かされていることに戸惑っていた。 吾郎のピアノを奏でる指先から、寿也が操るそのタクトの先から、 狂おしい何かが溢れてくるのがわかった。 自分は眉村に、ここまで深く気持ちを伝えたことがあったのだろうか・・・? 曲調がテンポ良く軽やかなテーマへと変化した。 一瞬、楽しげに目を合わせながら、戯れるような余裕を見せる指揮者とピアニスト。 やがてまた、切なくも甘い、アダージョの旋律があらわれる。 薬師寺は、昨日のことを思い出していた。 寿也を残しカフェを出た自分を、店の外で待っていた恋人。 何か言いたげだった眉村の言葉を遮り、ごまかすように、たわいのない話をしていた自分。 (逃げるなと、佐藤に言っておきながら・・・・。逃げてるのは俺じゃねーか。) バイオリンを構えた。 ビブラートを響かせて、甘く切ない旋律を奏でる。 自然と体が動き、薬師寺の長めの髪もふわりと揺れた。 彼と同じメロディーを奏でられる最後の曲。 涙で滲んで楽譜が読めない。しかし、この3ヶ月、何度も練習してきた曲だ。 指も、体も、譜面どおりのメロディーを覚えていた。 _____そう・・・・・・覚えている。 誰もいない音楽室で、初めて交わした口付けを。 その体に、やさしく触れた夜を。 共に過ごしたかけがえのない時間を。 ____忘れることなどできない。 涙と共に溢れる想いは、薬師寺の心を静かに溶かしていた。 このステージが終わったら、眉村にはっきりと伝えよう。 ________これからもずっと、俺はお前を愛してると。 →第三楽章へ 11章トップへ back to novel menu