<エピローグ>
あれから、半年。
寒さの中に、少しずつ、春の訪れを予感させるような、3月のある日。
「合格おめでとう薬師寺。さすがだね。現役合格!」
「るせーな第一志望の国立には落ちたんだ。あんまりうれしくねーんだよ。」
「また贅沢なこと言って・・・・。」
教室の片隅で交わす会話は、久しぶりであってもいつもと変わらない。
それがなんだかとてもうれしい寿也だった。
「眉村、まだイタリア?卒業式には帰ってくる・・・?」
「いやそれが、大事な舞台があるらしくて・・・・。」
「そう・・・残念だなあ。」
「まあ・・・そうだな・・・」
さほど残念そうに見えない彼を見て、寿也はふと思い当たり、
小さな声で囁いた。
「じゃあ、薬師寺から、よろしく伝えてよね?」
「・・・は??」
「だって、会いに行くんだろ?」
それを聞いた薬師寺の顔には、卒業旅行に、留学中の恋人のいるイタリアへ行く計画がなんでバレてるんだ、
ということが有り有りと書かれている。
「君も案外抜けてるねぇ」
寿也はあきれた笑顔を見せると、足取りも軽く教室を後にした。
教室の窓から見えるのは、校庭を横切り、やがて校門に向かう寿也の姿。
それを見た薬師寺は、ため息混じりにつぶやいた。
「なんだよ・・・ずいぶんと機嫌がいいと思えば・・・」
寿也が、足早で駆けていくその先に、懐かしい人影がみえた。
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久しぶりに訪れる茂野邸に、素晴らしいピアノの音が響き渡る。
あの音楽祭から、また一段と腕をあげたような、華麗なテクニックと荘厳な迫力。
寿也は圧倒されつつも、幸せな気持ちでただ聴き入っていた。
「吾郎君・・・・また上手になった・・・・・?」
「いや、まだまだだって。いつもダメ出しばっかりされるぜ?俺はもっとこう・・・・」
常に上を目指すその情熱を語る吾郎。
変わらないその姿勢に、寿也はなんだかとてもうれしくなった。
「そのうち僕も、そっちにへ行けるようがんばるよ。」
「モタモタしてると、今度はヨーロッパに行っちまうぞ、俺。」
「あはは。そうだね。ヨーロッパもいいなあ・・・。」
「そんなことより、お前も受験でピアノ弾いたんだろ?」
「え?あ、まあ・・・・」
「弾いてみろよ、ほら!」
吾郎はいつかのように、寿也をピアノの前に座らせた。
相変わらずのその強引さに、少し膨れながら寿也が振り向く。
「嫌だよ。君の前でピアノを弾くなん______!!」
あの時と同じようにまた、吾郎に強く抱き締められ、寿也の言葉は遮られてしまった。
「もう・・・嘘つかねぇだろ?」
吾郎の優しい問いに、顔を赤らめた寿也は一度はうつむいたが、
すぐに顔をあげて、にっこりと笑う。
「・・・そうだね。」
そして、濡れた瞳をそっと閉じた。
それはつかの間の逢瀬。
抑えられない気持ちはどちらも同じだった。
深くなる口付けとともに、すこしずつ、その手がお互いの肌を求めていた。
ふと吾郎が動きを止めると、いいのか、という視線で寿也を見つめた。
答えなど言うまでもない。
寿也は両の手のひらで吾郎の頬をやさしく包み、自分からやさしく、その唇を重ねた。
ピアノの音はもう聴こえなかった。
聴こえるのはただ、キスと熱い吐息が奏でる、甘く美しいメロディー。
<メジャオケ!! 完 >
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