オーケストラにかける高校生のお話です。
ゴロトシ+薬眉
〜パラレル小説 <メジャオケ!!>〜
〜プロローグ〜
その日、佐藤寿也は所属する海堂高校管弦楽部の早乙女静香顧問に
呼ばれていた。
何でも神奈川県の記念事業の一環で、今年の夏の音楽祭で、県下の高校管弦楽部からメンバーを集め、
合同オーケストラを結成、演奏するという企画があるという。
「それでね、その指揮者にあなたが選ばれたんだけど・・・。」
寿也に背をむけていた顧問はゆっくりと振り返る。
「別に、無理してひきうける必要はないわ・・。
あなただって、これからはいろいろと忙しいでしょう?」
はあ、と気の無い返事をして、寿也は少し考えた。
管弦楽部の、つまり全国の高校オーケストラのコンクールはこの春終わったばかりだ。
音楽科と普通科を併設している名門海堂高校は、進学校としても名高い。
そのまま上の音楽大学に進むものもいれば、受験に専念する者もでてくるだろう。
それぞれの進路にむけて、大切な夏。コンクールで輝かしい結果を残したのだ。
これ以上、高校でオーケストラを続けても・・・。
そんな寿也の心中を察したのか、早乙女顧問が言った。
「いいのよ。こちらも高音連の手前、話はうけてきたけど、
やっぱりこの音楽祭の指揮者には二年生の誰かを推薦するわ。
そもそも、いろんなレベルの高校生の寄せ集めよ?ピアノのソリストも高校生だっていうし・・。」
「え?ソリストって・・・演目はピアノ協奏曲なんですか?」
「そうよ。まだ、最終決定ではないけど・・・。」
曲名を聞いて寿也は少し驚いた。
高校生が演奏する曲なのか・・?
「誰なんですか?そのソリストは」
「聖秀高校の、茂野吾郎君。」
・
・・やっぱり。
寿也は先日のコンクールのステージを思い出していた。
優勝したのはもちろん寿也の海堂高校管弦楽部だった。
しかし、荒削りでレベルもバラバラなのに、何故か審査員や会場の人々に強い印象を残し、
異例の「特別賞」を受賞した聖秀高校オーケストラ部の演奏。その指揮をしていたのが彼だった。
元々は、有名なピアニストを父に持つ天才奏者。ピアノでアメリカに留学したはずの彼が帰国して、
新設されたばかりの無名のオーケストラを指揮して賞を受けたことは、しばらく世間でも話題になっていたのだった。
「コンクールでの受賞と、本田茂治氏の忘れ形見、という経歴が委員会の方々のお気に召したそうよ。
まあ師匠の茂野氏の人脈もあるでしょうけど・・・。まあいいわ。この話は忘れて頂戴。
指揮者はうちから出すことになったけど、わざわざ貴方が苦労することな・・・」
「いえ、是非やらせてください!」
思わず出た寿也の言葉に、驚いたのは早乙女だけでなく、
寿也本人だった。
第1章へ
back to novel menu