<今宵も、君と> 2
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「街中、クリスマスですねぇ。」
カウンターの中の大将が、旬の魚を次々と見事にさばきながら言った言葉に、
薬師寺が大人気なく苦笑する。
「おっと、政治と宗教と野球の話はご法度だった」
いたずらっぽい顔をした大将がおどけると、
薬師寺は、最後のキーワードは気になりますね、と笑う。
大将は、いえいえ、お客さんがどこのどなたかは口にはだしませんが、
来年も大活躍してくださいよ、と、こちらの気分を持ち上げる。
小気味よい会話はやがて終わり、
店の主は新たな客として入ってきた老夫婦の相手をしに、
カウンターの反対側へと移動した。
食事は済んでいたが、なんとなく居心地がよくて、二人は席を立てずにいた。
自慢の冷酒を勧められるまま傾け、今シーズンを振り返ったり、
契約更改についてこっそり耳打ちしたりする。
なんともいえない緩やかな時間の中で、頬杖をついた眉村の背中に、
薬師寺がそっと触れた。
「・・・うちに来るか?」
薬師寺が一瞬だけ見せた熱っぽい視線を、拒む理由はなかった。
二人は店をでると、タクシーを拾おうと、大通りに向かって歩き出す。
寒空の下、星が瞬いていた。
このあたりは住宅街だから、あたりはひっそりと静まり返っていた。
所々、戸建の家の庭や窓には、煌びやかなイルミネーションが飾られている。
素直に、綺麗だと思いながら、薬師寺をチラリと見た。
彼は、酔いも手伝ってか、上機嫌でバッティングの話をしていた。
きらめく光の破片が、整った横顔を照らしている。
いつからだろう?
薬師寺が、クリスマスらしくない誕生日にこだわり始めたのは。
男女の恋人が行くようなクリスマスディナーとはいかなくとも、
華やかな食事と美しいイルミネーションを、
こっそりと楽しんだ年もあったのに。
誕生日が12月25日であることに、眉村は特別な感情などなかった。
たまたま、自分が生まれた日が、季節的行事に、重なったまでのこと。
誕生日を祝うというセレモニーよりも、
ただいつものように二人でいられればそれでいいのだが、
自分のために、あれこれと考えてくれる恋人の心遣いは、嫌いじゃなかった。
_____お前の気の済むようにすればいい。
タクシーの中でうつらうつらとしながら、眉村は思った。
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