<今宵も、君と>
 3








「おい、着いたぜ」



心地よい声で目が覚めた。
薬師寺も酔っていて、眠気のぬけない自分を半分抱きかかえながら鼻歌まじりだ。

部屋に入り、薬師寺が冷蔵庫から水を出して飲んでいる姿を
眉村はソファに座ったまま、ぼんやりと見ていた。

ラジオをつけた薬師寺が、流れてくるクリスマスソングに舌打ちしたから、
お前のそのクリスマス嫌いはなんとかならないのか?と、笑った。



「だから、お前の誕生日なんだって言ってるだろ?」

「カンケイないだろう?」

「あるさ!」



語気が強かったので少し驚くと、薬師寺はうつむいてごめんと言った。

そして、ゆっくりと近づいてくると、眉村の横に座り、やさしく抱き締めた。
触れ合った頬が、まだ少し冷たい。でも吐息はとても温かくて、
眉村は素直にその身をゆだねた。


「俺・・・・たぶん、嫉妬してるんだ。」

「何に?」

「・・・クリスマスってやつに。」

「・・・・解せないな・・・・。」

「・・・・世界中が、お前を祝ってるみたいだから。お前はいつも、輝いていて・・・・」


______時々、俺の腕の中にいてはいけないんじゃないかって・・・。


小さなつぶやきが耳元で消えた。


眉村は、こんな風に時々思い詰める薬師寺を理解できない。
いろいろと考えをめぐらせて、でも最後にはこうやって自分を抱き締める。
器用そうに見えて、本当は不器用な彼の愛情は、時に甘く、時に切なく、眉村を包む。

自分が帰る場所はいつもここなのだ、という安心感は、
眉村にさらなる強さを与えるというのに。


「・・・・薬師寺・・・。」


彼のように、自分も甘い言葉を伝えてみたいとも思う。でも、上手く、言えない。

言葉の代わりに、自分から口付けた。



静かな部屋に漂う、キスの余韻。
眉村のせいいっぱいの優しさに、体を離した薬師寺がうつむいた。





「クリスマスが嫌いってわけじゃねぇよ。」

小さな声で、口を開いた。


「・・・・・俺の両親、クリスチャンなんだ。クリスマスイブの夜は、
毎年、礼拝に連れていかれたよ。
さすがに、中学くらいからは行かなくなったけどな」

眉村は静かに恋人を見守った。

「俺自身は、はっきり信じ切れなくて、ずっときたけど・・・・。なんとなく、
世間の浮かれ騒ぎにくらべれば、 クリスマスは神聖なものだって思ってた。」


淡々と昔を語るその表情は、どこか寂しげだ。


「プロ入りして、最初の年だったかな。無事に一年やってこられた親が喜んで、
久しぶりに行かないかって言われたんだ。
まあ俺も親孝行だと思って行ったけど。」


明かりを落とした礼拝堂の中で、一人一人、キャンドルを灯す。
蝋燭の炎がゆらめき、賛美歌が響き渡る。
薬師寺の瞼に、神聖で荘厳な、張り詰めた空気が蘇る。

「その場の皆がキリストの生誕を祝ってるって言うのに。
・・・・・・俺はたった一人、違うことを考えてた。」



眉村はそれが何を意味するか、痛いほどわかった。

思いつめたような薬師寺の髪をそっと撫でると、その胸に抱き寄せた。


「・・・薬師寺。俺はお前から・・・・・・何かを奪ってしまったのか?」

「違うよ。俺が捨てたんだ。お前のせいじゃない。」

眉村の肩に顔をうずめたまま、薬師寺は穏やかに言った。

「俺は、神とか信仰ってものは、よくわからない。
でもな・・・何かを信じるために、資格が要るのか?」

「それは違・・・」

薬師寺が顔を上げた。視線が交錯する。

「同じだろう?お前の傍にいるためには・・・・許しを請わないといけないのか。」

「だって許されないだろう、俺たちは・・・」

「誰の許可も要らない。俺は自分の意思でここにいる。それじゃ駄目か?」

泣きそうな薬師寺を捉える、眉村の真っ直ぐな視線。


______どうしてこんなにも、コイツは強いんだろう・・・・。


薬師寺は、瞳から溢れる涙をごまかすように、勢いよく眉村を引き寄せて抱き締めた。





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