Winter in N.Y    
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ロサンゼルスで入団会見を終えた薬師寺は、
マスコミの取材や監督へのあいさつなどを済ませると、
その夜の最終便で、ひっそりとJFK空港に降り立った。
ほどなくして携帯が鳴り、指示された場所に向かった。
上品なハーフコートに身を包んだ眉村が現れる。

異国の雰囲気におされたのか、
約一年ぶりの再会に、面影とは違う変貌に戸惑ったのか。
薬師寺ははにかむように軽く手をあげて、よう、と言うのがせいいっぱいだった。

彼を見つめる眉村も黙って微笑んだ。



宿泊先のホテルに着いた。
一昨日テキサスから到着した眉村が先にチェックインしていた。
眉村は鍵を開けながら、昨日無事にイベントの仕事をやりおえたと言う。
部屋に入ったときには深夜を過ぎていた。
薬師寺は大きなため息と共に伸びをして、二つならんだベッドの一つに倒れこむ。
アメリカサイズの大きなスプリングは、体格の良い薬師寺の体を簡単に受け止めた。

「元気にしてたか?」

「ああ。」

「ワールドシリーズ、すごかったぜ。」

「ありがとう。」

「ここがアメリカ…ニューヨーク…か…。」

「一度ゆっくり来てみたかった。つき合わせて悪いな。」

「……。」

「薬師寺?」

一連の大仕事の疲れと時差が堪えたのだろう。
ベッドの上に体を投げ出した彼はそのまま寝入ってしまっていた。
眉村はそっと毛布をかけてやり、部屋の明かりを消した。



◇◆◇



薬師寺が目覚めると朝9時をまわっていた。
眉村は既にどこかに出かけてきたのか、
温かなコーヒーと焼きたてのベーグルがティーテーブルの上に置かれていた。

「よく眠れたか?」

「ん・・・・・・」

寝起きが悪いのは相変わらずだな、と眉村が苦笑する。
不機嫌な薬師寺は生返事だった。
昨晩、近況報告をしながら、荷解きをしたことまでは覚えていた。
まだ頭がぼーとしていている。
だが窓の外に見えるマンハッタンの景色が目を覚まさせる。

「エンパイアステートビルが見える!」

瞳を輝かせる薬師寺に、眉村がいたずらっぽく笑う。

「行ってみるか?新米メジャーリーガー。」

「望むところだ。こうなったらとことん観光するぞ。」


これぞ、オフシーズンの開放感。
プライベート旅行の醍醐味とばかりに、二人は行き当たりばったりで
クリスマス間近のニューヨークの街へと繰り出した。

ロックフェラーセンターの美しいツリーを見上げ、
タイムズスクエアで写真を撮った。
もちろんヤンキースタジアムははずさない。

五番街で散財する薬師寺に、眉村は首をかしげ、
いつまでも自由の女神を見上げている眉村を、薬師寺は微笑ましくみつめた。

夕暮れ時のマンハッタンに言葉を無くし、
ブロードウエイでミュージカルを見てから、
遅くまでパブで酒を飲む。

一流レストランで舌鼓をうち、
時には冒険心からジャンクフードにも手を出した。
そんな時は決まって薬師寺が顔をしかめる。

「これ、不味い」
「なら食うな」
「腹は減ってんだ」
「なら黙って食え」

眉村の表情は変わらない。
だが次の瞬間、二人は同時に笑い出した。
まるで、学生の卒業旅行のようだった。
これが案外心地よい。

「俺たち……やっと友達になれたな……」

「そうだな。」

テーブルに肘をつき、ジッと眉村を見詰めた。
瞳に写る自分の姿。

「教えてくれよ。どうやってお前のこと抱いてたんだ?」

「知るか。」

眉村は笑う。楽しげに。
薬師寺もうれしそうに軽口を叩く。


毎日、あちこちに出かけては、クタクタになるまで歩き回り、
ホテルに戻ると電池が切れたように眠りに落ちる。
短い日程はあっという間に過ぎていった。


キスも無く。抱擁も無い。
それが当たり前になってもう長い。
情愛が再燃するような二人なら、最初からここにはいない。






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