かなり異色な古代ローマ風ゴロトシパラレルです。
二人が剣闘士になってます(・・・・)
時代考証など無く、雰囲気だけで書いてしまいました。申し訳ありません。
むしろファンタジーだと思ってくださいませ。
流血、戦いなど、苦手な方はご注意を!!
「剣と君、血と涙」
古代帝国のコロッセウムには今日も歓声が響き渡る。
興奮する観客がみつめる先には二人の男がいた。
対峙する剣闘士の名はゴローとトシヤ。
二人はかつて祖国のために命を賭けて戦った勇敢な戦士だったが、
彼らの母国はこの帝国によって滅ぼされた。
ゴローとトシヤは、幼い時からいつも一緒だった。
そして、互いに唯一無二の存在だった。
だが、激しい戦いの中で、二人はそれぞれ別の場所で捕らわれてしまう。
そして互いの生死もわからぬまま、奴隷として生きてきたのだった。
トシヤは優れた剣術の腕を見抜かれ、剣闘士としてコロッセウムに上がった。
生きるために相手を倒すしかない日々は虚しい。
それでもトシヤはゴローが生きていると信じ、ひたすらに剣をふるっていた。
いつかもう一度彼に巡り会うために。
彼こそが、トシヤのすべてだったから。
一方のゴローも、トシヤと二人で自分たちの国を復興させることを夢見て、
どんな屈辱にも耐える日々だった。
ところがある時、トシヤは既に死んだと聞かされてしまう。
証拠にトシヤの装飾品を見せられ、ゴローは絶望に打ちひしがれた。
自分ひとりで何ができるというのだろうか。
生きる意味を失ったゴローは冷酷な殺人鬼となり、最強の剣闘士となる。
返り血を浴びたその顔に生気はなく、
相手が息絶えてもなお剣を振り下ろすその非情な様は、
もはや彼の精神が破壊されてしまったことを示していた。
幾たびか時が流れ、とうとう、トシヤはゴローと対戦することとなる。
競技場に現れた男を見て、トシヤは涙する。
生きていてくれたのか。
体中を喜びが駆け巡ったのもつかの間、次の瞬間、
彼と殺し合わなければならない運命を呪う。
天を仰ぎ悲痛な叫びを上げるトシヤを見ても、
何故かゴローの表情に変化はない。
非情にも試合は始まる。
鈍い音をたてて、二本の剣が火花を散らした。
圧倒的な吾郎の力の前に、何度も倒されるトシヤ。
それでも、トシヤの心は何故か落ち着いていた。
彼に殺されて終わる命ならそれでいい。
「会えてよかった。もう僕に心残りはないよ。」
刃が交差した刹那、トシヤはゴローに囁いた。
だが、ゴローの瞳は空ろなまま、別れの言葉はよどんだ空気の中に消えた。
トシヤの声は全くきこえていないようだ。
「僕を・・・忘れてしまったの・・・?」
ゴローの視線はトシヤを見てはいない。
ただ殺す相手だけ、いや、それすらも見えていないのだ。
二度、三度と、強烈な打撃を受けて、
バランスを崩したトシヤが倒れる。
すかさず、馬乗りになったゴローは、トシヤの喉元めがけて
切先をふりかざした。
何の躊躇もないゴローに、トシヤの中で何かがはじけた。
「僕が会いたかったのは、こんな君じゃない!」
トシヤの瞳に闘志が蘇る。
ゴローの剣は必死で体を反転させたトシヤの右横の地面に深く刺さった。
動きを止められた刀を握るゴローを蹴り飛ばし、
トシヤはなんとかその場を逃れた。
一方的な試合にうんざりしていた観客席から歓声が上がる。
「お願いだよ・・・せめて僕を思い出して」
かけがえのない友の変わり果てた姿にこのまま殺されるわけにはいかなかった。
今度は、トシヤの反撃が始まった。
ゴローのパワーは強烈だが、その攻撃にクセがあることはよく知っている。
機敏な動きで相手を翻弄するトシヤ。
戦いは五分五分のまま、時間だけが過ぎる。
場内の興奮は最高潮となる。大観衆は緊迫した試合を喜んでいた。
悲しいかな、二人の悲劇は彼らにとって余興でしかない。
よく見ると、トシヤの体にはあちこち傷がつき、血と汗でどろどろになった鎧は
鈍い光をも失っていた。
何度か吾郎の体に傷を負わせることができても、トシヤの一撃には迷いがあって
どうしても致命傷を与えることはできないのだ。
一方の吾郎は、息も上がらず、無機質な攻撃を繰り返しては、
不気味に呻いていた。
幾度となく呼びかけるトシヤの懇願は虚しく流れ去る。
ついにトシヤは叫ぶ。
「僕が君を解放する!」
共に戦い、心の底から愛した友はもういない。
そこにいるのは、ただ、目の前の相手を殺すことでしか生きられない悲しい獣。
ならばその苦しみを絶ってやろう。
トシヤはゴロー瞳の奥に、虚しさに嘆く光を見たような気がしたのだ。
信じられないほどの速さで、ゴローの攻撃をかわしたトシヤは、
間髪いれずに長剣を投げつけた。
そして相手が怯んだ瞬間、懐に飛び込み、短剣で急所を狙う。
「終わりにしてあげるよ・・・」
ためらいを捨て、剣を握る手に力を込めた。
その瞬間、ゴローの体から、力が抜けたような錯覚に陥る。
それでもトシヤは心を奮い立たせ、鎧の継ぎ目に狙いを定めた。
鋭い矛先が牙を向く。
次の瞬間、トシヤは我が目を疑った。
ゴローが柔らかな笑みを浮かべ、抵抗することなくトシヤの刃を受けたのだ。
「え・・・?」
無情にも指先に伝わる、吾郎の肉を切り裂く感触。
慌てて引き抜いたがゆえに、血しぶきが舞い上がる。
「あああああ!!」
「ト・・・シ・・・・」
彼がもう一度自分の名を呼ぶ声を、どれほど待ちわびたかわからない。
それなのに、たった一度だけしか聞くことはできないのか。
膝から崩れ落ちるゴローを、トシヤは必死で支えようと抱き止めた。
何度も何度も、名前を呼ぶ。
__死ぬな、お願いだ!!
答えはない。
代わりに彼の温かな血がトシヤを紅に染めてゆく。
___ああ!僕を・・僕を許して・・・。
震えるトシヤの肩の上で、ゴローはその瞳を閉じる。
小さくありがとう、と呟く声が、トシヤの耳元で聞こえたような気がした。
泣き叫ぶトシヤの声は、狂ったような観衆の轟きにかき消された。
雨が降り始めた。
まるで、はらはらとこぼれるトシヤの涙に共鳴しているようだった。
ゴローを抱いたまま、トシヤはずるずると座り込んだ。
試合の終わりを告げる鐘が鳴り、
二人の兵たちが二人を引き離そうとする。
トシヤはゴローを抱いたまま、離れようとはしなかった。
勝者として再び誰かを殺すだけの生き地獄に戻るなんてまっぴらだった。
吾郎の血に染まった短剣を、もう一度しっかりと握りなおすと、トシヤは呟く。
「待っていて・・・僕もすぐ後から行くよ。」
その時だった。
「・・・トシ・・・逃げるぞ・・・」
肩越しに、ゴローの小さな声が聞こえた。
驚くトシヤがその顔を覗き込む。
うっすらと目を開けたゴローの視線は、たしかに自分を見ていた。
心臓への渾身の一撃はトシヤがゴローの変化に気付いた瞬間とほぼ同時だった。
それでも反射的にトシヤの手が動き、ほんのすこしだけずれたのだ。
しかし重傷であることには変わりなかった。
痛みをこらえながら、必死で笑顔を作ろうとするゴロー。
だが、その瞳には生気が宿り、不屈の闘志が輝いている。
ゴローは、一度だけトシヤを抱き締めた。
やがて、歯を食いしばりゆっくりと立ち上がる。
ああ、これこそがこの男の強さであり、力なのだ。
その姿はトシヤの勇気を奮い立たせ、傷ついた肉体をも癒すようだった。
誰よりも愛する男の視線に、深く頷くトシヤの表情にも、かつての輝きが戻る。
二人は瞬時に目の前の兵を斬り捨てた。
場内にどよめきが広がり、すぐに大勢の兵が二人を取り囲んだ。
背中合わせに剣を構え、ゴローとトシヤは、果てしない戦いに立ち向かうことなる。
「傷・・・大丈夫?」
「もう一度お前と一緒に戦えるんだ。こんなのなんでもねぇよ」
背中越しに、一度だけ視線を交し合う。
それだけで十分だった。
逆境の中で再び結ばれた二つの魂は、暗黒の世に輝く希望の光だった。
終
2008・11・23
なんと!木綿一丁様から、このお話の素敵なイメージイラストを頂きました!!
コチラからどうぞv
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