ゴロトシがフ○ンドパークに挑戦!?
薬眉の二人が見守ります(笑)
「君とナントカパークにて」
オフシーズンのとある月曜日。
薬師寺のマンションを訪れていた眉村は、
久しぶりにのんびりと食事を楽しんでいた。
「あ、そうだ!!」
テレビの前で急に薬師寺が声を上げた。
「何かおもしろいもんでもやってるのか?」
聞いておきながら、興味なさげな眉村の声。
「いいからこっち来いよ」
ニヤニヤしながら、薬師寺は眉村を無理やりソファの前に座らせた。
目の前の大きなテレビ画面の中では、
ベテランの司会者が楽しげに会話を繰り広げている。
これはたしか、なんとかパークとかいった番組だったか・・・?
眉村が不思議に思っていると、派手なスモークとともに、
勢いよくジェットコースターに乗った今日のゲスト出演者が登場した。
「今日のゲストは、若手プロ野球選手のお二人です。
昨年のワールドカップでも大活躍の幼馴染コンビに来ていただきました!!」
紹介の言葉とともに現れた二人を見て、
眉村は飲んでいたビールを噴出しそうになる。
「巨仁の佐藤寿也選手とメジャーリーグのホーネッツ茂野吾郎選手です!」
そこには、無理やり作った笑顔の寿也と、つまらまそうな顔をした吾郎の二人が、
色鮮やかなセットの前に立っていた。
「佐藤から、この番組の収録に行った、とは聞いてたんだ。放送は今日だったか。」
薬師寺は楽しそうにワインを飲みながら、眉村の隣に座ると、
面白かったって言ってたから、見てやろうぜ、と楽しげに笑う。
だが、画面の二人の様子はどうもおかしい。
◇◇◇
話は、三週間前の収録当日にさかのぼる。
「佐藤選手、茂野選手、そろそろ、本番なんでスタンバッテくださあい♪」
軽いノリのテレビスタッフの声がドア越しに聞こえたので、寿也は慌てて
今行きます、と返事をする。
その向こうで、壁を向いたまま返事をしない大きな体はビクともしなかった。
「いつまでリハーサルのこと怒ってんだよ!」
「お前一人でいけば?」
「・・・・そんなことできるわけないだろ?これも仕事なんだから、ちゃんとやりなよ。」
「うるせぇなあ。」
これからが本番だというのに、二人の間には何やら不穏な空気が漂っていた。
それもそのはず。
先ほどのリハーサルで、テレビでみるよりも難しいアトラクションの数々にことごとく失敗し雲行きの怪しいスタートだったのだ。
おまけに、長時間の収録という慣れない状況に、吾郎のテンションは
すっかり下がっていた。
こうなってしまった吾郎はどうにもこうにも扱いづらいことをよく知る寿也は
これから始まる本番の収録を思うと、ため息しかでなかった。
「めんどくせーなぁ。朝からどんだけ時間くってんだ?さっさと終わらしてくれよ。」
「吾郎君!静かにしなよ・・・。テレビ番組を作るのは大変なんだよ。」
「へぇぇ寿くんは何でも知ってるねぇ」
「そうじゃないけど・・・。」
カメラは既に回っている。たくさんのギャラリーたちの視線と声援に、
寿也は笑顔で答えるが、吾郎は仏頂面である。
だが、そんなことはお構いなしに、タイムスケジュールは淡々と進み、
オープニングトークが軽妙にふられる。
『お二人とも、背がお高いですねぇ。たしか、幼馴染なんですよね?』
「はい。」
『プライベートでもとても仲がよいと伺いましたが』
「そうでもないっスよ」
「ちょっと、そこまで言わなくても!」
『ははは、見事な突っ込みですねえ』
恐ろしいほど感情そのままの吾郎の受け答えと、
それを慌てて打ち消す寿也の姿は、
わざと狙ったネタのようにみえたらしい。
スタジオ内にどっと笑いが起きると、
とりあえず寿也はホッとした。
(もう!いいかげんにしろよ)
カット!という声でカメラの録画が止まると、
寿也は懸命に自分を抑え、吾郎に小さな声で囁く。
「吾郎君、楽しくやらなきゃ、見てる人もつまんないよ?」
「俺は別にテレビのためにゃ生きてねーよ」
相変わらずの大人気なさに呆れ果てる。この仕事のオファーがきたときは、正直二人での出演に喜び、寿也は内心楽しみにしていたというのに。
(仕方ない。そっちがそうなら・・・・。)
拍手と歓声がひと際盛りあがった。
最初のアトラクションは、トランポリンで飛び上がり、全身で壁にはりついて
高さを競う昔からの定番ゲーム。
そこできっちりジャンプを決めて高得点を出した寿也は、
あからさまに吾郎を挑発する。
「茂野君にはきっとできませんよ」
「なんだと!?」
売り言葉をまんまと買った吾郎は、思わず熱くなってイキオイよくジャンプする。
先ほどの寿也よりもずっと上、
一番上の一発クリアゾーンに張り付いてる吾郎の姿は、両手両足が開き、
さながらおおきなカエルのようだった。
そのこっけいな姿を、寿也は観客と一緒になって笑うと、
少しはイライラした気分が治まった。
そして、寿也の心中も知らずに、司会者やアナウンサーたちは、
すばらしい運動神経ですね、とその場を盛り上げていた。
◇◇◇
「おい、こいつらなんかギクシャクしてねぇか?」
「お前もそう思うか?」
手に持ったグラスはとうに空っぽだというのに、
先ほどから薬師寺と眉村はテレビに釘付けだった。
第一関門を突破したのはいいが、続くアトラクションで、
二人はまったくと言っていいほど、上手く立ち回ることができない。
蕎麦を配達するというバーチャルバイクが、
バランスを取れずに何度も転倒するたびに、
二人はお互いのせいにしながら、完全に喧嘩腰だ。
薬師寺は思わず、沖縄で行われたW杯日本代表との壮行試合を思い出す。
「・・・また、佐藤が折れるのか?」
薬師寺のつぶやきに、眉村が苦笑した。
◇◇◇
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