<それぞれの戦い>
寿也たちから離れた戦場の一角では、吾郎と千石の一騎打ちが続いていた。
馬上の二人の刀は、何度も交差しては離れ、互いに一歩も譲らない。
「ち・・・しぶといな」
さすがの吾郎も、息が切れている。
ここまで全力で肉弾戦を続けていたのだ。
実力に差はないのだろうが、体力が余っている分、千石真人が優勢と思われた。
「殿!!」
「お館様!!」
馬上で交差したままの刀が一度離れ、もう一度交わったとき、
千石の刀が折れた。
勝利を確信した吾郎がニヤリと笑うと、千石が不敵な顔を見せそのまま
飛び掛る。
もつれあったまま地面に転がる二人を、千石軍がとりまいた。
吾郎に馬乗りになり脇差しを光らせた千石の手を、必死で押さえる吾郎。
その手の力が徐々に弱弱しくなろうとしていた。
脇差の切っ先が、吾郎の喉元に近づく。
誰もが、吾郎の最期だと思ったその時。
___吾が君!!
愛おしい声が聞こえたような気がした。
むろん、寿也はまだ吾郎たちの場所からは離れたところで馬を走らせていたのだが・・・。
(・・・・・寿・・・・・・!!)
吾郎の眼に、鋭い眼光が一瞬にして蘇る。
信じられないような強力で、千石の手を跳ね返した吾郎は、
あっという間に体勢を逆にしてしまった。
今度は吾郎が脇差を抜き、組み敷いた千石に向けて振り下ろそうとした時だった。
千石軍から、一本の矢が吾郎に向かって放たれた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「清水殿・・・大河殿!しっかりいたせ!」
もしやと思い戻ってくれば、傷つき倒れている少年の姿に、寿也の胸は酷く痛んだ。
・・・この傷では助からないかもしれない。
ならば、せめて、最期のその時は吾郎の傍にいさせてやりたい。
まだあどけなさの残る、青白いその顔を見つめ、寿也は決意する。
寿也の体とて、無傷ではなかった。だが、戦場の様子が混沌としていることから、
万に一つも形勢逆転の望みを見出したその瞳は、生きる輝きを取り戻していた。
矢のような速さで戦場を駆け抜け、茂野軍の旗印を見つけた寿也は、
バラバラになり疲労しきったその小隊に合流すると、
すぐに大河の手当てを指示し、声高に叫んだ。
「ひるむな!まだ戦は負けておらぬぞ!」
___佐藤殿!!
___軍師が戻られたぞ!
凛々しいその姿を見て士気を取り戻した兵士たちは足並みをそろえ始める。
寿也の指揮の下、立て直された隊のもと、続々と茂野軍が再集結した。
そのまま寿也は一気に城へと攻め込んだ。
「勝機は我らにある!恐れずに進むのだ!」
その言葉にこめられているのは、本当は微かな希望だけ。
それでも、寿也の言葉は勇気となって、全軍を奮い立たせた。
其の十へ続く
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