<夏草や>
障子越しに聞こえる声で目が覚めた。
離れの部屋はいつものように静かで、
気がつけばいつもとかわらぬ_____夏の朝。
「いかがなされましたか?」
「・・・・・・・あの戦の夢を・・・・みた。」
炎の中で流した涙のせいか、目尻だけがまだ冷たい。
「そのご様子ではお疲れかと。いましばらく、お休みになられては。」
「大丈夫だ・・・。」
「あれだけの犠牲があったのです。
殿のお心の傷が未だ癒えぬのも・・・致し方無きことかと。」
声の主には、自分の涙が見えるのだろうか?
あの激しい戦の疲れは、未だ体の節々に残る。
「ようやく雨も上がったようです。いかがにございましょう?
・・・久しぶりに早駆けなど。某でよろしければ、お供いたしまする。」
障子が開かれると、雨の雫が残る庭の木々の葉が、
朝の光を浴びて輝きを放っていた。
幼き頃、遠くまで馬を走らせ、日が暮れるまで駆け抜けた思い出に包まれる。
「・・・・・では、馬を引け。」」
「御意。」
「・・・待て。」
何故か、今一度その名を呼ばれたので、彼は再び自分の目の前に跪いた。
「・・・・・いや、よい。 すぐに支度を。」
こちらを真っ直ぐにみつめる、薬師寺の瞳は、いつものように美しかった。
それだけで、十分だった。
<終>
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