サンデーネタバレ注意!
大河の最後の夏
聖秀高校野球部神奈川県大会予選敗退直後のお話。
アニメオリジナルキャラ渋谷君が2年生エースという設定です。
<夏の続き>
惜敗した日の夜、部員たちを元気付けようと、
山田先生や父母の会が開いてくれた焼肉パーティに、
渋谷は少し遅れて到着した。
そして、一番気になる人の姿が見えないことにすぐ気がついた。
「・・・キャプテン来てないんですか?」
「残念ですが、今日は欠席すると連絡がありました。」
顧問の言葉をきいて、キャプテンいないんじゃ冷めるよな?という他のメンバーが騒ぐ前に、
彼は店のドアをもう一度開けていた。
「俺・・・探してきます。」
店内に漂う香ばしい匂いも、今の渋谷にとってはなんの魅力もない。
足は自然と学校に向かった。
裏山から聞こえる蝉の声がひときわ大きくなり、まだまだ、夏はこれからだと騒いでいるようだ。
それなのに、自分と、そしてキャプテンの夏は終わってしまったのだ。
最後にバッターボックスから見た塁上の彼は、すべてを託すように大きく頷いていた。
(・・・・俺を信じてくれたのに。)
ふがいなかった自分の姿を思い、渋谷はぎゅっと唇を噛む。
屋上へと続く階段を上り、ドアを開けた。
やっぱりここだ、と、渋谷は少し緊張した。
偉大な先輩が作ったという、屋上のグラウンド。
清水大河は、こちらを背にしたまま、日が暮れて蒼白くなった空をみつめていた。
渋谷に気付いても、驚くそぶりはない。
「・・・何しに来た?」
何の感情も伴わない、冷たい声に、渋谷は入り口から動くことができない。
それでも心を奮い立たせると、ゆっくりと彼に近づいた。
「迎えに来たんですよ。」
「さっさと焼肉食いに行けよ。俺は遠慮しとくから。」
「どうしてですか?皆、待ってます。」
「あんなとこ見せちまって、どのツラ下げていけるんだっつの。」
「そんなの・・・誰も気にしませんよ。」
本当の理由はきっと違う。渋谷はそう思って、歩みを止めなかった。
「行かねーっつってんだろ!?」
ドスのきいた声と共に振り返った大河の目がいつもにも増して厳しかった。
常日頃怒られてきた条件反射で、思わずビクっとした渋谷は、それ以上大河に近づけない。
それどころか、自分を睨みつける大河の視線に耐えられず、うつむいてしまった。
だが、ここでおめおめと引き下がるつもりなんかなかった。
試合後、大河が人目をはばからずに見せた泣き顔を思い出す。
彼の心は、まだ、子供のようになきじゃくっているのだろうか?
あの涙を見た時、渋谷は、溢れる想いを押さえられないことを自覚した。
聖秀野球部を作った、という人に憧れて、この野球部に入った。
気がつけば憧れは、嫉妬に変わっていた。
「全く・・・茂野先輩って人は、なんてことしてくれたんだろうな。」
無理だとわかっていても、立ち向かわずにはいられない。
俺の夏は、まだ終わってないんだ。
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