パラレルstory
< Bar Third のクリスマス 〜はじまりの雨 続編〜 >
(薬×眉)〜はじまりの雨〜本編はコチラ
自分の部屋は好きじゃない、という眉村は、時折、都心のシティホテルで薬師寺と過ごした。
それぞれ昼の仕事と、夜の仕事を持つ身である。
休みが合うのは日曜だけで、それすら、眉村の仕事が入れば無くなってしまう。
それでも、二人で過ごす僅かな時間が、都会の荒波で彷徨う互いの心を温める。
日も翳り始めた、土曜日の午後。
まどろみから目覚めた眉村の目に映ったのは、
彼を起こさないようそっと支度をしていた恋人の姿。
自分は今日休みだが薬師寺はこれから夜にかけて仕事だ。
久しぶりにゆっくりと逢えたというのに、無常にも時は流れ行く。
寂しそうな顔をしたつもりもないのに
ごめんな、と言って額にキスされたのがまるで子供のような扱いだったから、少し睨んでみる。
涼しげなその顔で、さっきまで息も荒く、自分を求めていたというのに。
初めて抱き合った夜は、同性で行う行為への違和感より、触れ合う肌の心地よさに酔った。
身体を重ねることに抵抗が無かった訳じゃない。
それでも、耳元に感じる相手の息吹、濡れた瞳、与えられる快感が、
二人の関係をより深いものにしたことは確かだった。
「今夜も店は忙しくなりそうだな」
眉村のつぶやきに、どうかな、と薬師寺は首を傾げる。
都内の繁華街ならともかく、住宅街のバーのイブなんて、意外とすっからかんだぜ?と笑う。
その言葉に、初めて今夜はクリスマスイブだと眉村は気付いた。
「そうか・・・・」
その日が自分の誕生日であることを彼に伝えたことがあったのか、眉村は思い出せずにいた。
互いの気持ちにすら気付いていなかった頃、
つまり、客として店に通っていた頃、弾みで生まれ月の話をしたような、しないような。
「あとでまた会えるか?」
物思いにふける眉村を軽く抱き締めながら薬師寺が言った。
こんな日に一人でいることもないだろ?と、暗に店に来て欲しいそぶりを見せた。
互いに照れるからなのか、男同士の禁忌を後ろめたく思うからなのか、
恋人という関係になってからは、眉村が「Bar Third」に行くことはなかった。
「無理だ・・・・溜まってる仕事を少し片付ける。」
やんわりと否定はしたが、彼が望むなら一人の客としてまたあの店に行ってもいい。
恋人を見送りながら、今日は何故かそう思った。
高層ホテルの窓から一人見下ろす都会の景色は、人工的な冷たさを感じて好きじゃない。
夜になると、あまりのまばゆさに吸い込まれそうになる。
ここでうごめく何千何万の人間の、たった一人の自分の小ささを感じる。
眉村は、クローゼットに掛けてある昨日のスーツを着直すと、
チェックアウトの準備をして部屋をあとにした。
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